耳科手術

慢性的に続く耳だれや難聴(聞こえが悪い)をきたす慢性中耳炎や真珠腫性中耳炎といって周囲(内耳や顔面神経、脳など)に進展する特殊な中耳炎に対して、薬物療法や局所処置などの保存的治療で改善を認めない場合は手術を検討します。耳科手術は手術用顕微鏡が開発されたことにより手術法が確立されております。当科では耳の後ろからアプローチして中耳腔(鼓室)内を操作する方法や、鼓膜の穴(穿孔)が小さい場合は耳内からアプローチして操作する方法を行っております。鼓膜に穴があったり、鼓膜につながる耳小骨(ツチ骨・キヌタ骨・アブミ骨)が炎症により壊れていることにより症状を認めるため、患者さんの耳の上部にある側頭筋を被う筋膜を用いて鼓膜を再生し、耳小骨は患者さん自身の耳介の軟骨を用いて再建しています。また、真珠腫性中耳炎では中耳腔に隣接する乳突蜂巣に病変が進展していることもあり、この場合は乳突蜂巣をドリルで削り中耳腔や乳突蜂巣の換気を改善させることもあります。 なお、鼓膜の穴が小さい方に行う鼓膜形成手術(湯浅法)は入院の必要はなく、日帰り手術として対応しています。 また、近年耳科領域でも内視鏡下手術が導入され始めています。当科でも平成26年度に耳内観察用の内視鏡を購入しましたので、今後は耳科手術にも導入していく予定です。

 

内視鏡下鼻副鼻腔手術

鼻腔(鼻の穴)の周囲にはたくさんの空洞があります。これを副鼻腔といい、上顎洞、篩骨洞、前頭洞、蝶形骨洞に分けられます。洞内は小さな毛(せん毛)の生えた粘膜で覆われ、分泌物や異物などをせん毛の働きにより鼻腔へ排泄しています。洞の奥では脳や眼に隣接しており、それぞれの洞は鼻腔とつながっています。 副鼻腔にウイルスや細菌の感染やアレルギー炎症などが加わることにより、せん毛の機能が低下し副鼻腔粘膜が慢性的な炎症を起こしている状態を慢性副鼻腔炎(いわゆるちくのう症)といいます。さらに悪化すると粘膜の一部が病的な粘膜(ポリープ;鼻茸)となり、鼻腔まで出てきて鼻腔をふさいでしまいます。症状としては鼻閉(鼻づまり)、粘性鼻漏や後鼻漏(粘り気のある黄色の鼻水が出る、のどにおりる)、嗅覚障害(においがしない)、頭痛、頬部(ほほ)痛がみられます。これらに対して、薬物療法や局所処置などの保存的治療で改善を認めない場合は手術を検討します。 内視鏡下鼻副鼻腔手術は、病的な粘膜を可能な限り切除し、鼻副鼻腔の通り道を広く開放させ、本来の鼻副鼻腔に近い状態を作り、鼻副鼻腔のもつ自浄作用を回復させるために行います。鼻閉(鼻づまり)改善の手術(鼻中隔矯正術や粘膜下下鼻甲介骨切除術、下鼻甲介粘膜切除術など)を併せて行う場合もあります。術後は出血を防ぐため鼻腔にガーゼを数日間詰めます。そのため数日間は鼻閉(鼻づまり)が続きますが、退院前にガーゼを抜去します。術後も定期的な診察、処置や抗生剤、消炎剤の内服を数ヶ月間続けることが再発を予防するために必要です。 なお、今年度(平成27年)中に手術支援機器としてナビゲーションシステムが導入される予定であり、より安全で正確な内視鏡下鼻副鼻腔手術の実施が期待されます。

ナビゲーションシステム併用の内視鏡下鼻副鼻腔手術の様子

初期研修医や専門医を目指す後期研修医の研修

耳鼻咽喉科が担当する領域は非常に広く、耳科・聴覚領域、めまい・平衡・顔面神経領域、頭頸部腫瘍・頭頸部外科領域、鼻科・嗅覚・アレルギー領域、音声・言語領域、口腔・咽頭領域、喉頭・気管・食道領域、味覚・嚥下領域など多岐にわたります。また、五感(視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚)のうち視覚を除いた全ての感覚器が耳鼻咽喉科の領域に該当し、まさしく日常生活に直結した部分を扱う診療科でもあります。また、耳鼻咽喉科は外科系でも内科系でもどちらでもできるのが魅力であります。外科系では頭頸部腫瘍手術、中耳・喉頭の顕微鏡下手術、鼻副鼻腔の内視鏡下手術、口腔・咽頭手術、音声改善手術、嚥下機能改善手術などを経験することができ、内科系では難聴・耳鳴、めまい・平衡障害、顔面神経麻痺、花粉症などのアレルギー疾患、嗅覚・味覚障害などの感覚器障害、感染症などを経験することができます。耳鼻咽喉科専門医取得後は自分の希望や興味、適正に応じて、各領域のスペシャリストになることができます。もちろん、一つにしぼるだけでなく、耳鼻咽喉科全般のジェネラリストとしてやっていくことも可能ですし、一般的には自分の専門性を持ちながら耳鼻咽喉科全般の診療をされている先生方が大半です。
日本耳鼻咽喉科学会では平成29年度より新専門医研修制度が始まる予定であり、当科もそれに対応し、耳鼻咽喉科専門医取得のための後期研修が可能です。また、当科は上記にある耳鼻咽喉科領域の全般を扱っていますので、外科系、内科系、ジェネラルいずれの耳鼻咽喉科医を目指す先生でも十分な研修が可能です。
また、専門科が決まっていない当院の初期研修医の先生も年に数人程、当科で研修されています。当科では見学だけでなく、積極的に診療に参加してもらい、短い期間でも耳鼻咽喉科領域の最低限の知識や手技は習得してもらっています。今後耳鼻咽喉科を選択するか否かに問わず、どの先生にも役立つような研修内容ですので、ご興味ある先生はぜひ当院耳鼻咽喉科を選択してみてください。

 

最近の当科における手術件数(外来、入院症例含めて)
外耳:耳瘻管摘出術、外耳道腫瘍摘出術、耳介腫瘍摘出術など
中耳:鼓室形成術、鼓膜形成術、鼓膜換気チューブ留置術など
鼻腔:鼻中隔矯正術、粘膜下下鼻甲介骨切除術、下鼻甲介粘膜切除術、下鼻甲介粘膜レーザー焼灼術、鼻腔腫瘍摘出術など
副鼻腔:内視鏡下鼻副鼻腔手術(Ⅱ型、Ⅲ型、Ⅳ型)など
顎下腺:唾石摘出術、顎下腺摘出術、顎下腺腫瘍摘出術など
耳下腺:耳下腺腫瘍摘出術、耳下腺悪性腫瘍手術など
口腔:舌腫瘍摘出術、舌悪性腫瘍手術、口唇粘液のう腫摘出術など
咽頭:口蓋扁桃摘出術、軟口蓋形成手術、アデノイド切除術、咽頭腫瘍摘出術など
喉頭:声帯ポリープ摘出術、声帯腫瘍摘出術、喉頭蓋嚢胞摘出術など
頸部甲状腺:甲状腺腫瘍摘出術、甲状腺悪性腫瘍手術など
頸部その他:頸部郭清術、頸嚢摘出術(正中頸嚢胞、側頸嚢胞)、頸部リンパ節摘出術、頸部皮下腫瘍摘出術など
顔面外傷:整復術(鼻骨骨折、上顎骨骨折、頬骨骨折など)

睡眠時無呼吸症候群

いびきとは、睡眠中の異常な呼吸音であり、口狭(軟口蓋と口蓋扁桃、舌の間の空間;口を『あ~』と開けて見える空間)が狭くなったり、鼻呼吸が妨げられることにより起こります。いびきがひどくなると、いびきの後で息が止まることを繰り返す睡眠時無呼吸症候群を発症することがあります。呼吸が止まっている間は血液中の酸素濃度が減り、心臓や血管の負担となりますので、起床時の頭痛や日中の傾眠、集中力低下などの症状を起こし、将来的には心肥大やチアノーゼ、狭心症、心筋梗塞、脳梗塞、時に突然死の原因になりうることが最近知られております。
口狭が狭くなる原因としては肥満や加齢、扁桃肥大などがあり、鼻呼吸が妨げられる原因としては慢性副鼻腔炎や鼻中隔弯曲症、アレルギー性鼻炎、アデノイド増殖症などがありますので、睡眠時無呼吸症候群はお子さんからご高齢の方まで幅広く存在しております。
当科では睡眠時無呼吸症候群が疑われる患者さんに対して、画像検査や睡眠時無呼吸検査(簡易検査としてアプノモニターを2晩自宅で装着、精密検査としてポリソムノグラフィーを1泊2日の入院で実施)を行っており、睡眠時無呼吸の程度や患者さんの口挟や鼻の状態から総合的に判断して治療を行っております。治療としては、生活習慣に関する指導やCPAPの装着、手術(口蓋扁桃摘出術、アデノイド切除術、口蓋垂軟口蓋咽頭形成術)などを行っており、他には内科的治療(内科に紹介)や歯科装具の装着(近隣の歯科に紹介)などがあります。
*睡眠時無呼吸検査は予約になりますので、まず午前の一般外来を受診していただき、診察にて検査が必要と判断された方に検査を受けていただくことになります。

睡頭頸部癌

耳鼻咽喉科は脳、眼を除く首から上の全領域を専門としておりますが、この領域を「頭頸部」、ここにできる腫瘍性疾患を「頭頸部腫瘍」といいます。 当科では頭頸部腫瘍の良性、悪性の両方に対応しております。 頭頸部は聴覚・嗅覚・味覚のほかに咀嚼・嚥下・呼吸・発声という重要かつ多岐にわたる機能を担っているため、その治療にあたっては、その機能の温存、治療後の患者さんのQOL(生活の質)を十分に考慮する必要があります。 良性腫瘍や舌癌、唾液腺癌、甲状腺癌に対しては手術を行います。 喉頭癌に対しては早期癌であれば、放射線と抗癌剤治療で音声機能の温存を図りますが、進行癌の場合は手術も検討します。

 


嚥下外来:

脳血管障害後や神経筋疾患、加齢による嚥下機能の低下によって嚥下障害をきたすことがあります。重症の嚥下障害では食物を口から摂取できなくなるだけでなく、繰り返す肺炎の原因にもなります。嚥下障害の方のQOL(生活の質)を高めてあげるには嚥下障害を正しく評価し、その原因を究明し、改善を目指すことが重要です。 当科ではまず嚥下内視鏡検査や嚥下造影検査などを用いて嚥下機能を評価しています。次に患者さんに合った食物の形態や食べ方などを工夫し、言語聴覚士や看護師らと共に嚥下リハビリを行い、嚥下機能の改善を図ります。リハビリを行っても嚥下障害が変わらない場合は、障害が軽度であれば「嚥下機能改善手術」を、高度で誤嚥性肺炎を起こしやすいと判断すれば「誤嚥防止手術」を検討します。

*嚥下内視鏡検査や嚥下造影検査は月曜日午後に予約制で行っております。まず午前の一般外来を受診していただき、診察にて治療や検査の必要があると判断された方に検査を受けていただくことになります。

嚥下内視鏡検査:内視鏡カメラで観察しながら嚥下の状態を評価します


嚥下造影検査:X線透視下に嚥下の状態を評価します



アレルギー外来

アレルギー性鼻炎は、鼻粘膜で起こるアレルギー反応で、くしゃみ、鼻水、鼻づまりといった症状が反復して起こるのが特徴です。アレルギー性鼻炎の抗原物質としてはハウスダスト(室内のちり)やダニ、花粉、かびなどが代表的です。とくにスギの花粉症はみなさんご存知のとおり、国民病と言われる程、患者さんが多くみられます。
当科ではアレルギーの原因となる抗原の検査(血液検査)やアレルギー炎症の程度をみる検査(鼻汁中好酸球検査)、鼻腔通気度検査、内視鏡検査や画像検査(CT検査、レントゲン検査など)を行った上で診断し、治療方針を検討することとしております。
アレルギー性鼻炎の治療は、アレルギーの原因となる抗原を除去(室内の清掃やマスクの着用、うがいなど)することや薬物療法、免疫療法、手術療法などがあります。
薬物療法は、症状を除くためにアレルギー反応を抑える内服薬や点鼻薬などを投与するほか、通院にて鼻の処置やネブライザーを受けていただいております。
免疫療法は、アレルギーの原因となる抗原のエキスを少しずつ増量しながら定期的に注射することにより、別種の抗体を体内に作り、アレルギーを起こす抗体と抗原が結び付かないようにする「減感作療法」が根本的な治療法として確立しております。ただし、注射による免疫療法は頻繁な通院を数年は必要とすることやアナフィラキシーショックを起こすリスクがあることなどが欠点となり、当科でも実施しておりません。平成26年秋にはスギ花粉だけではありますが、舌下免疫療法(口の中に投与する)が始まりました。舌下免疫療法ですと注射による免疫療法に比較し、通院回数が少なく、副作用も軽度であるとされております。当科では舌下免疫療法のみ行っております。
薬物療法や免疫療法で効果が乏しい場合は、手術治療を行います。鼻粘膜でのアレルギー反応が起こりにくくすることを目的として下鼻甲介粘膜レーザー焼灼術(局所麻酔、日帰り)を行ったり、下鼻甲介の腫脹や鼻中隔弯曲などの形態異常がみられる場合は、粘膜下下鼻甲介骨切除術や鼻中隔矯正術(局所麻酔もしくは全身麻酔、入院が必要)を行っています。また、重症なアレルギー性鼻炎では下鼻甲介の中を走行し鼻汁分泌に関わる神経を直接切断する選択的後鼻神経切断術を行うこともあります。

皮下免疫療法

舌下免疫療法